すっかりと冷え込む日が続き、空も冬の色。
薄暗い朝でも、変わらずな毎日の営み。
ご飯にだし巻き卵、お漬け物に、ほうじ茶でお茶漬け。
冷えやすい足には厚手の靴下を。
くるくると巻物を巻いて、蝶のブローチで端を留めると
玄関を飛び出し、自転車に乗って、バス停まで走ります。
ちょっと早いかな。ベンチに座り道の向こうを
今か今かと待つのは、早くあの人に会いたいから。
ひさしぶりの電話でも、まるで何日か前に話をしたみたいに、
いつもとかわらないちょっと低めの優しい声。
わたしは母に一日の出来事を報告する小学生のときのように、
色んな話をします。うんうん、と聞いてくれるあの人が
じゃあこんど、そっちに遊びに行こうか。
と言ったので、わたしはますます子どものように声が弾むのです。
あんな風に居なくなってごめんなさい、
あのときあなたがいたことが、
どんなにわたしを勇気づけたか、あなたに伝えたい。
寒い冬の日、こたつで暖かいお茶をのんだこと。
外はあんなに冷たかったのに、行き場をなくしたわたしを迎えてくれる
あの小さな部屋があったことが、今日のわたしにつながっています。
バスが赤い橋を越えてやってきます。
わたしは立ち上がり、そちらをじっと見つめます。
一年前と同じよう。扉が開くと、あの人に会える。
あたたかで、しずかな、年上のひと。
ともだちと呼ぶには、歳も離れているけれど、
あの人がいるだけで、ほっとする。
今日はうちでゆっくり過ごしてもらって、色んな所を案内して、
ちょっと洒落たレストランでご飯をたべて、
ウチにかえってこたつに入ろう。
そして今度はわたしがあの人に、
暖かなお茶を入れたい。
何一つ特別なことがなくたって、
毎日はすばらしい。
こんなにも贅沢な時間がそこにある。
ほっとするひととき、
体中にあたたかさが染み渡る、
静かなお茶の時間。
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